
どこから見てもブサイクでチープな
“大谷口給水所ポンプ棟” である。
解体撤去されてしまった土木構造物の“霊魂”とか“魂魄”といったものが、物件が解体されてしまった後もどこかに存在し続けているとしたら、それだけでもたいへんコワイ話であるが、その“霊魂”だか“魂魄”だかが、新しく造られたタテモノにとりついて再生する、ということになったら、これはもう恐怖のきわみである。今回は、東京都板橋区大谷口1丁目で不動産業を営まれているかたが執筆されたブログの記事を紹介することにしたい。
“走れる?千川の不動産屋さん 藤巻不動産” というタイトルのブログに見られる、
“大谷口の水道タンク” と題された2011年4月4日の記事である。引用する。
地元板橋区大谷口の水道タンクが生まれ変わりました。
正式名称は、大谷口給水所ですが地元では「水道タンク」と呼ばれています。
「水道タンク」から板橋区・豊島区など周辺地域に給水されます。
(中略)
お部屋探しにこられたお客様の中には、どこかの宗教施設ですか?と
怪訝な表情で質問される方もいらっしゃいましたが、「給水所!」ですから
ご安心を!“「給水所!」ですからご安心を!”といわれても、解体撤去された配水塔の“生まれ変わり”だといわれたら、おそろしくて夜更けなどはその近くを歩くこともできないだろう。もっとも、自分が大谷口配水塔(解体撤去されてしまった大谷口水道タンク)だったとしたら、あんな悪趣味な“おまる”(大谷口給水所ポンプ棟)なんかに憑依しようなどと考えるなんてことはありえないだろうし、そんなことをしてしまったらプライドもアイデンティティーも崩壊するにちがいないと思うのだが、地元大谷口1丁目では大谷口配水塔の尊厳なんてモノは誰も認めていないようで、あたりまえのように“おまる”を二代目水道タンクとして認知してはばからない。そんなわけで、完成して間もないのに、早くも“地元では「水道タンク」と呼ばれています”という現象が生じているわけだ。地元のヒトがそう呼んでいるのだから、ヨソ者が異を唱えてもこれはもはやどうにもならない。
つけくわえておくと、この種の“生まれ変わり説”は、東京都水道局のサイトにも見られる。以前にも紹介した、
“大谷口給水所が完成します!” と題された2011年3月2日付のプレス発表には、このような記述があった。
昭和6年に建造された(旧)大谷口配水塔が、この3月に大谷口給水所として新たに生まれ変わります。東京都の公務員が非科学的だといって批判するのは当たらないだろう。なにしろボスが津波天罰説のヒトなので、都庁では輪廻転生も因果応報もなんでもアリだ。だがそれなら、大谷口1丁目に完成したあの醜悪な“おまる”も、大谷口配水塔の保存運動に尽力しなかった地元住民に対する“天罰”として下されたモノだといってもいいのではないか。といっても、“待ちに待った新しい水道タンクが完成しました”とか、“これが大谷口の誇る新しいランドマーク、二代目の水道タンクなんだ”、などといって地元の住民たちがあの“おまる”を大歓迎しているのだとしたならば、あれは“天罰”としてまったく機能しなかったということになる。やはり天罰は津波に限るということか。