2011年02月01日

巷説 0003

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“水道タンク”という語を辞書的に定義するならば、

配水塔、高架水槽等の、地上の高い位置に水槽を設置し、自然流下によって円滑に配水することを目的として整備された、上水道施設の俗称。一定の高さを持つ土木構造物であるため、ランドマークとしての機能を併せ持っている場合が多い。

といったところになろうかと思われる。文化庁の“文化遺産オンライン” で調べてみると、“水道タンク” という名称で登録有形文化財に指定されている新潟県長岡市の中島浄水場の配水塔が紹介されているし、また、新潟市新潟市にある登録有形文化財 “亀田町上水道高架水槽” の項にも、“町の近代化を支えたランドマークで,水道タンクの名で住民に広く親しまれている。” という記述が見られる。
それ以外にも、群馬県前橋市にある敷島浄水場の配水塔の通称が“水道タンク”だったり、東京都中野区にある野方配水塔の前の関東バスの停留所名が“水道タンク前”だったりするわけだが、どの土地での用例でも、“水道タンク”は“配水塔”や“高架水槽”の俗称であって、それ以外のものを指すことはかつてなかったはずである。
ところで、東京都板橋区には“水道タンク前”とか“水道タンク裏”といった名称の国際興業バスの停留所がある。その停留所の近くには、2005年まで “大谷口配水塔” という名称の上水道施設があったので、それまではそういう停留所名でまったく問題はなかったわけだが、その後、配水塔の跡地の地下に配水池が整備され、その上に配水塔の意匠を模した“ポンプ棟”という名称の珍妙な建築物(上の写真の物件)が出現するに及んで、この“ポンプ棟”を“水道タンク”と呼んでしまっていいものだろうか、という問題が生じてきた。なぜかというと、“ポンプ棟”の地上部分には水槽がもともと整備されていないからである。旧来の“水道タンク”という語の用例からすれば、これは“水道タンク”の語義から明らかに逸脱したヘンなモノである。近ごろの流行語でいえば、大谷口の水道タンクがガラパゴス的進化を遂げたモノ、ともいえなくはないような気もするが、しかしこんなモノを亀田町上水道高架水槽や野方配水塔と同列にあつかうことに抵抗をおぼえるヒトも広い世の中にはいくらかは存在するのではないだろうか。
しかし、数あるブログの記事の中には、そういう歴史的経緯にはまったく触れず、大谷口の“ポンプ棟”を“水道タンク”と称し、それを絶賛してみせる、などといったものもある。一例を挙げると、“Knブログ” という名称のブログの “大谷口の水道タンク” という2010年9月23日付の記事では、“ポンプ棟”の写真を示した上で、こう述べている。

前から噂には聞いていたのだが、先日大谷口へ行った際、はじめて実物を見た!
水道タンク!!

  (中略)

予想を上回る壮大さ!!
バス停の名前にもなってるくらいの有名な水道タンク、名前にふさわしい風格があった。


この記事が冗談ではないのだとしたら、大谷口配水塔を知るヒトには“巨大なおまる”ぐらいにしか見えないようなブサイクな建築物(“癸卯雑識” の “大谷口 0069” 参照)でも、“風格”を感じてしまうヒトがいる、ということになる。なにしろ前から噂に聞いていた“水道タンク”なのである。それに目の前のバス停は“水道タンク前”ではないか。内部に水槽が整備されていようがいまいが知ったことではない。これを“水道タンク”と呼んで何が悪い。そのような論調が、今後勢いを増して多数を占めていくような気がしてならない。そうなったら、自分がここでブツブツ文句をいっていたとしても、多勢に無勢、負け犬が雨に打たれてぐずっているようなもので、誰も相手にはしてくれないだろう。
posted by K.T. at 20:09| Comment(0) | TrackBack(0) | 雑識
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